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夜の国のクーパー [book]

「オー!ファーザー」&「バイバイブラックバード」を読み納めに、
もう、伊坂作品はやめようと思ってたんですが、
傑作が出てしまったかも?!


ある国の猫と、ある国のヒトと、私と、3つの立場から語られる一つのストーリー。

ベルリンの壁みたいのに囲まれた小さな辺境の国が、戦争に負けた話か?
と思って読み進めて行くと、
突然、「クーパー」なるものがでてくる。
現実めいた話かと思ったけど、実はそうでない?!

わからなくなりかけた時、
3つの立場の、それぞれの世界観が、シンクロし、じわりじわりとクロスオーバーしはじめる。
猫と対話をはじめた鼠、ある国のヒトとクーパー、私と浮気した妻。
ちょっとした描写や比喩に、ああ、もしや?と気づき始めてくると、
今度は実に身近な話に思えてくるから不思議だ。

しゃべる猫がでてくるせいか、
同作者の、しゃべる案山子が登場する「オーデュボンの祈り」に似てる、
とコメントされてる方が多いみたいだけど、
私には、「アヒルと鴨のコインロッカー」だなぁと思う。
ドルジ(登場人物)がドルジでなかったように、
「こうだ」と思っていた世界の裏で、真実が進行していたり。
「そんなはずはない」と思ったことが、ちょっとしたことで大転換したり。

あと似ているとするならば、能・狂言・民話・童話の類かなぁ。
物語中でも、ある「言い伝え」が核となってるけど、
この小説自体がそんな雰囲気を出してる。
私の周りには小説や物語を、「くだらない」と言いきるヒトが多いけど、
お話だから、お話じゃなきゃ、伝えれないことってあると思う。

帯にあった、
「どこか不思議になつかしいような」「誰もがまったく読んだことのない」
「そんな破格の小説をお届けします。」
の意味が最初よくわからなかったのだけど、読後、意味がじんわり響いてくる。
なかなか言いえて妙です。

話からそれるけど、
あとがきで、ご本人も描かれてるけど、大江健三郎さんへのオマージュが効いてる。
「バイバイ、ブラックバート」の太宰治の時も思ったけど、
ほんと、伊坂さんはこういう作品づくりが上手い。
久しぶりに(難解なのが多いけど)、大江作品読みたくなったり。

さらにそれるけど、
猫飼いとしては、猫の描写もすばらしい。
照れ隠しやインタールード的に行われる毛づくろいとか、
キモチより先に反応して、膨れたり、ゆらゆらするしっぽのこととか、
マロンも、実は、ヒト語すべてわかってるけど、わかんないフリしてるだけなんじゃない?
って思ってしまいます。

「ラッシュライフ」に代表されるような、
ユーモアとミステリを伊坂氏に期待される方にはオススメしませんが、
(今回は、ユーモアはだいぶ抑えられてます)
ストーリーテラーとしての伊阪氏を期待する方にはオススメの作品だと思います。

はぁ、伊坂作品やめないでよかった・・・!


夜の国のクーパー

夜の国のクーパー

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/05/30
  • メディア: 単行本



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